アキヒコと私
アキヒコと私
栗本藤基
 1982年、私が信州のある精神科病棟で、大勢の精神病患者を前に行き詰まっていた時、彼は私のものの見方を転換させる知恵と勇気を与えてくれた。患者及び病棟の弁証法的転換が彼によってなされたのだ。それは3つの段階に整理される。現象の認識、実相(態)の認識、そして実践の段階である。これは彼が世界の紛争地域に身を置いてその本質を求めたのと同じであった。実際、病棟では、患者は、現実から離れた現象の虜となり、虚構化して自己の生産的展開ができずにいた。そのような患者を多く診て、私も行き詰まっていた。彼は現場まで来てくれ、患者の病める部分と健康な部分を見極めるとともに、我々の関わり方の実態を見た。そして、彼らの本質を捉える一方、我々を批判した。「彼らは現代社会の矛盾を背負っている人々であり
、日本の未来のために無くてはならない人達だ」と。彼はその視座から、処遇改革の実践を行った。患者のみならず、病棟の変化の中で、私には新たな世界が広がって見えたのである。   (2003/2/26)